あたまのりんご。

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彼にかしてもらった消しゴムに助けられてわたしは1日をのりきった。 HRが終わって、消しゴムをかえそうかと思ったら彼はもういない。 「木浦ならグランドに行ったよ」 わたしが彼をさがしているのがわかったのか、うしろの席の子が教えてくれた。 グランドということは陸上部かサッカー部か野球部に入部希望なのだろうか。 わたしは足早にグランドへ向かう。 まもなくグランドに彼の姿を見つけた。あたまにりんごはのっけていなかったものの、彼は鉄棒に片手で逆立ちをしていた。 「なにしてるの?」 わかってはいるが、あえてきいてみた。彼なら面白い返答をしてくれるのでは、と多少期待したりするが。 「見てのとおりさ」 逆立ちだよ、と彼は逆さまに見えるであろうわたしを見て言った。 「鉄棒で逆立ちするひとはじめてみたよ」 わたしが素直に感想を述べると、彼はいやぁ照れるなぁとわざとらしく言って鉄棒から降りた。 「消しゴムありがと」 「いえいえ、どういたしまして」 彼は帽子をとる仕草をしながら深々とあたまをさげた。 「ところで木浦くんはなんの部活にはいるの?」 どうも彼は陸上部やサッカー部といったイメージはないし、野球部にはいって坊主あたまの彼も想像しがたい。 「サーカス同好会つくりたいんだけどさ、協力してくれる?消しゴムのよしみでさ」 思わぬ答えに戸惑いはあったが、サーカスと言われて彼にしっくりくる言葉だなあと思った。 「悪いはなしじゃないだろう?」 わたしの高校生活は不思議なものになりそうな予感がする。
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