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兄が家を出てから約一ヵ月。麗らかな春は過ぎ去り、梅雨前の陽気が神戸には漂っていた。
あたしは今日も一日の終わりを、ホットコーヒーと共にリビングで過ごしている。
娯楽アイテムだった雑誌から数学Ⅱの参考書へと変わり、あたしは夜の一時を難問と向かい合い悪戦苦闘していた。
シャーペンで数式を書き出しては「やっぱり違う」と消しゴムで白紙に戻す。英語と化学は今のところ得意な方だけれど、数学だけは昔から苦手だ。
解読できない苛立ちに前髪が視界を邪魔して拍車を架ける。憤慨しつつ掻いた髪は、漂白されて色が飛んだ髪から、チョコレートの様な焦げ茶に変色している。
兄が去りあたしの背中を「何か」がそっと押してくれた。
勉強なんて真剣に取り組んだ事はなかったし、学校に通う事を無意味だと思っていた。漠然とした将来に、ただ不安を感じる毎日だった。
それでも、あたしは生き抜こうと思う。過ぎゆく日々に後悔したくはないから。何も行動を起こさず過ごす毎日ほど、空虚なものはないから。
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