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「いよいよ明日ねぇ。お兄ちゃん、大丈夫かしら。飛行機だから心配だわ」
午後九時過ぎ。家に帰ると珍しくカツ丼が食卓に並んでいた。丼物が嫌いな母が、明日受験の兄の為に腕を振るったようだ。
「お母さんが心配したって仕方ないじゃん、なるように成るよ。それよりお兄ちゃんはもう寝たの?」
「えぇ、明日は早いから。夕飯は七時頃に食べたし、もう寝てるんじゃないかしら」
紫漬を突(ツツ)きながら、あたしは「ふぅん」と興味もなく返す。
興味がない訳じゃないけれど、逆に兄はあたしに関心がないと思う。こんな出来損ないの妹を、恥とさえ感じているんじゃないだろうか?
ポツンと空いた兄の椅子を眺めれば、冷淡な兄の顔が脳裏をチラつく。
「ぞうさん」のマークが刺繍された兄の座布団に、二度と戻れない私達の幼児期へ思いを馳せた。
──小さい頃、鍵っ子だった私達兄弟は本当に仲が良かった。三歳年上の兄は、両親が不在の日常で父親であり、母親であり、兄であり。
一人三役を見事に果たしてくれた。
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