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兄の人生で、妹に対する初めての親代わりは保育園のお迎えだった。
当時は両親共に仕事が好調で忙しく、帰宅は午後八時をまわる日も珍しくはなかった。
小学二年生の兄が五歳の妹を迎えに来るなんて、周りには一例もなかったと思う。
それでも、兄と手を繋いで一緒に歩く帰り道は、穏やかで時に冒険の様で大好きだった。兄が駄菓子屋で買ってくれたジュースを飲みながら、二人で歩いた道中の景色は今でも忘れない。
料理に洗濯、学校の連絡帳に宿題。習い事の送迎。何でも上手く熟す兄は、母の代わりにあたしの身の回り全てを担ってくれた。
そして当時、両親の不仲は深刻で何時離婚しても可笑しくはない程、一触即発の日々だった。
喧嘩が始まる度に、兄は泣きじゃくるあたしを離れた部屋へ連れて行き「怖くないから。泣いちゃダメ」と言いながら、喧嘩が収まるまでずっと手を繋いでくれた。
本当は兄も泣いている事に気づいていたし、涙を堪える兄の姿を見る事が一番悲しかった。
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