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あたしが小学四年生に上がった春、中学生になり部活や塾に通い出した兄とは、今までが嘘の様に離れ離れの生活だった。
そんな時に、家庭科実習で課題となった座布団を、あたしは兄へのプレゼントとして作成した。日頃の感謝半分、兄に構って欲しい欲求半分、の動機だ。
初めて作った座布団は、歪で再縫跡が酷く、誤魔化す手段に大きな象のアップリケを縫い付けた。
数日後、ブルーの生地にピンクの象が刺繍された奇妙な座布団を兄は「ぞうさんだ」と笑いながら受け取った。食卓椅子の上に乗せ、大学受験生になった今でも愛用してくれている。
兄と過ごした日々はかけがえのない時間だった。
数え切れない兄への謝恩と千万の兄への謝意が、今でもあたしの心には溢れている。
あの時兄がいてくれたから、あたしは生きる事ができた。あの時兄がいてくれたから、淋しさなんて感じなかった。
両親の不仲で家庭は不幸だったけれど、兄がいてくれたから、あたしの幼年時代は誰よりも幸せで輝いていた。
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