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春も更けた三月の終わり。兄は無事に二次試験を通過し、志願した北海道の国立大学に合格した。
母は歓喜の声を上げ、単身赴任の父も電話越しに安堵の声を洩らしたらしい。受験前と打って変わった平穏な日常が、あたしの家を包んでいる。
兄は浪人生だった。一年間、朝から晩まで予備校に通い詰めて勉強を重ねる毎日だった。
一度だけ、予備校帰りの兄を見かけた事がある。いつもの様に駅前のロータリーで、友達と時間を潰している時だった。
絶望の様な、悲壮な目を据えながらトボトボと歩く兄の様は、傍から見ても痛々しかった。
そんな兄の姿に何の感情も沸かず、それどころか清々しさすら感じたあたしは、人間的に腐っていると思う。
何処で歯車が狂ったのかは解らない。擦れ違いの日々の中で、気づけばあたしは兄を恨む様になっていた。
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