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奏介と絢羽が死に物狂いでたどり着いた教室は、空だった。むなしく試合終了を告げるチャイムを聞きながら、奏介は修了式で靴箱の件に加えて言われていたことをはっきりと思い出した。
「始業式は体育館で点呼する。教室に荷物おいて八時三十分に体育館だ。遅刻なんて許さんぞ!」
確かにゴリラ難波は言っていた。マイクを使わずとも体育館中に響くような大音量で。
一足先に思い出した絢羽は小さく震えながら口角が右側だけつり上がり、白い歯が薄い唇の間からそっと顔を出していた。
落ち着け落ち着けと自分に言い聞かせてから奏介は、
「どうする、木坂……?」
選択肢は、体育館に行って校長先生のありがたい話の途中にペコペコ頭を下げながらそっと自分のいるべき位置に入っていくのか、それともここで始業式が終わり生徒たちがぞろぞろとやって来るまで待つかの二択。少なくとも奏介にはそれより良い案は浮かばなかった。
もうやだぁと嘆いてその場にへたれこむ絢羽。元から奏介よりも二十センチ近く低い上にしゃがみ込んでいるそれは、なんとも頼りなげですっかり力が抜けてしまっているようだ。
こいつをこのままほっといて行くわけにもいかず、自然と後者を取ることになった。
無理に絢羽を叩き起こして体育館まで引きずって行くこともできただろうが、正直奏介も今更そんなことをするのがめんどくさかった。どっちにしろお叱りを受けるのは変わらないだろうし、だったらここでリラックスしていたほうがいいと考えたのだ。
奏介も教室の壁にもたれつつしゃがみ込んだ。それでも絢羽とは頭一つ違う。別に奏介が特別大きいわけではない。絢羽がそれだけ小さいのだ。
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