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それにしても、と奏介は思う。
暗い。
あまりに暗すぎる。この空気が。
奏介と絢羽の二人を除いて誰もいない廊下に漂う雰囲気は、始まりの季節らしからぬものだ。
新年度そうそう失敗を犯してしまった二人の間はどんよりとした空気に満たされ、爽やかな太陽の光線さえも飲みこんでいる。前髪が目を完全に隠してしまっている絢羽はもう、テレビの中の井戸から液晶を貫通して出てきてもいいくらいに仕上がっている。
何とかしなければ。
絢羽の顔を覗き込みながら、キャラにもないテンションで
「てか、また同じクラスなんだな。今年もよろしくな!」
「……そうね」
中途半端に開いた窓から廊下に流れ込んでくるひんやりとした風。汗で湿った服がいやにすうすうする。
「ほ、ほかには誰がいるだろうな、二組。山城とかいんのかな?」
「……うん」
ひゅーと少し強めに入り込んでくる春風。
「あっ、スリッパそういえば持ちっぱなしじゃねーか。何やってんだろーなほんと、ははは。ほら、お前も掴んでないで履けよ。ドジだなー俺ら、ははは」
奏介は引きつったように笑いながら立ち上がって握りっぱなしだったスリッパを履く。
「……」
「っておい!無視してんじゃねーよ!せっかくこのどんよりした空気を明るくしてやろうと話題出してんだから、会話しよーぜ、会話ぁ!」
奏介の叫びは静まり返った廊下に響く渡った。空気の振動も収まり、再び静寂に返った廊下には体育館のほうから校長らしき人の声がスピーカー越しに聞こえてくる。本来なら、今頃体育館で退屈に聞いているだろう。
すると突然絢羽は顔をあげ、
「あっ」
と声を漏らす。
「ど、どうした!?」
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