春のち災難

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「カバン……靴箱だ」  そういえば、階段を上るときに手に持っていたのは、さっき履いたスリッパと絢羽の手だった。カバンはなかった。二人そろって靴箱に置いてきたらしい。ほんとにドジなのかもしれない、自分たちは。二人そろって始業式の日に焦って登校して、二人そろってクラス替えを忘れていて、二人そろってカバンを置き忘れ、二人そろってゴリラ難波の言葉を忘れていた。  無駄に息がぴったりなのは、互いにドジというものを生まれ持ったからか、それとも長い付き合いで影響されたからだろうか。どっちにしろ、まったくうれしいことではないけれど。 「じゃぁ、よろしく」  澄んだ顔でそう言う絢羽は行く気がないらしい。いつもなら、なんでだよ!くらい突っ込んでるところだが、さすがに疲れているようだし、ここで少しくらい男らしく取りに行くのもたまにはありかなと思う。自分が甘いのは分かってる。でも一応絢羽だってか弱い女の子だから。  と、何に対してか分からない言い訳を考えながら、奏介ははいはいと言って階段に向かう。    抵抗のない奏介に驚きの視線を向ける絢羽に気付きもせず。
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