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部屋に入った男は許可をとるワケでもなく勝手にテーブル横に腰を下ろした。 女はすねて泣いた後の子供のような表情のまま、その傍にまさに突っ立ている。 俺は煙草に火をつけて、男とテーブル越しに向かい合って座った。 何か言葉を発しようとした矢先、先に男が動いた。そして俺はア然とする。煙草の灰がテーブル上の書き損じた履歴書の上に落ちた。 「コレ、300万ヨ」 テーブルの上に持っていた大きなバッグを置き、ファスナーを開けて見せる。 日本銀行の発行する一万円札。福沢諭吉が束になって睨みをきかせていた。 情けないが頭に過ぎったのは去年末からついに手を出してしまい、今や返す当てもないまま積もり積もった闇金からの借金150万円だ。
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