第一ノ刻 ――ハジマリ――

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その子は着物を纏い、肌の色が異様に白かった。 俺は不思議に思い、彼女の下に歩み寄ろうと一歩 踏み出した時だった。 『タスケテ…。』 頭の中に幼い女の子の声が響いた。さっきまで聞 こえていた部活動の音などは聞こえず、その子の 声が聞こえ続けている。 『タスケテ…。』 『タスケ…テ…。』 『タス…。』 徐々にその子の声は聞こえなくなっていき、気が ついたらいなくなってしまった。 俺は彼女のいた筈の場所まで移動するが、そこに は何もなく、ロッカーの並んだいつも通りの廊下 の景色と部活動の音が響いているだけだった。 俺は頭を掻きながら家路についた。 次の日、学校について彼女が立っていた場所に再び足を運ぶ。 すると背後から何かの視線を感じた。とっさに俺は振り返る。 そには、昨日と同じ、あの子がいた。 視線こそ感じるものの、うつむき気味で彼女の綺麗な髪で、顔が隠れていて表情とかはわからない。 俺は今度こそ。と彼女に歩み寄る。 一歩、また一歩と近づいていく。 彼女は見慣れない風貌ではあるが、恐怖感とかそういうのはなかった。 彼女まであと数メートルというところだった。 『やっと…。』 彼女の声が頭の中に響いた。 『やっと…。逢えたね…。』 そういうと彼女はほんの一瞬、強ばっていた唇を緩めた。 そして、再び話しかけてきた。 『お願い…。タスケテ…。』
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