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五月の連休に入り、俺は再び実家に帰ってきていた。
だだっ広い庭先に車を止めて、トランクから紙袋を二つ取り出すと、俺は玄関へ続く飛び石を渡った。
ガラリと引き戸をずらせば、既にエンジン音で分かっていたのか、母親が迎えに出てきていた。
「ただいま、母さん。これ土産」
「あら、珍しい。何か良い事でも有ったの?」
紙袋を受け取りながら、驚いたように目を見開く母親に「別に」なんて、素っ気ない返事を返す。
単にちょっと纏まった金が入っただけの事。
敢えて言う必要も無い。
なんせ、俺の夢は"まだ"一歩前進したに過ぎないから。
「佳作」なんかに甘んじているうちは言えないさ。
今はまだ、ちょっと高級な菓子折り程度だが、そのうちもうちょい良い物を供えてやるよ、じーさん。
仏壇に向かって手を合わす俺の前、飾られた写真の人物は、ライトブラウンのキャスケットを被って人懐こそうに笑っていた。
★おしまい★
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