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二十代の頃なら「"まだ"カメラマンです」と答えていたと思う。
先にある夢や希望を見据え、"まだ"と言う接頭語を付けて自分自身を鼓舞する。
けれど、それに抵抗を感じ始めた三十代も、そろそろ半ば。
付けない事に慣れ、既に諦めさえも視野に入れ始める今日この頃。
ただ、それでも一筋の光を求めて今、この場所に来ているのも事実だった。
しかしながら、そんな微妙な心情を初対面で力説する程俺は若くない。
「カメラマン、結構じゃないか。此処の桜は被写体にはもってこいだ」
彼は、そんな俺の心を知ってか知らずか、優しげな、けれど力強い意思を感じさせる笑顔を見せた。
普段なら適当に切り上げていたと思うが、彼の持つ独特の雰囲気――何となく懐かしいような暖かみは、自然と俺を惹き付け、気が付けば彼の画板を覗き込んでいた。
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