絵描きと写真家志望

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書きかけの絵は、勿論此処から見える風景。 池の周りを囲む葉の落ちた木々と、水面を行く鳥影、その向こうの丘。 まだ当たりを付けただけの鉛筆画に、彼は更に細かい描写を書き加えているところだった。 「……写真に比べると、もどかしいでしょ?」 キャンバスと風景、交互に視線を移しながらサラサラと鉛筆を動かす彼。 「絵は、こうやってじっくり時間を閉じ込めるんだ」 吹く風の音に混じる、鉛筆が紙を滑る音と、彼のしわがれた声。 「ああ、別に写真を軽く見てるわけじゃないよ。写真はあれだ、一瞬の輝きを捕まえるのが得意技だ」 一度手を止めた彼は、此方を見上げて更に続ける。 「ただ、どちらにも言えるのは……想像の余地を残す事がポイントだと私は思うんだ。写真や絵に限らず、芸術なんてものは、受け取った側が心を動かしてこそなんだ。心を動かす余地を作る。まあ、アマチュアの絵描きの戯言(たわごと)かもしれないが、私はそんな風に思うよ」 彼はニッと笑うと再び視線を下に落とした。
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