いち

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私は近所の神社へやってきた。丘の上にあるこの神社は小さい頃からの遊び場で、神主さんが不在なためにシンっと静まりかえっている。 手入れはキチンとされているけれど、お参りに来る人も少ないから、一人になりたい時はいつもここに来ていた。 周りは木々に囲まれていてるのに暗いという事はなく、むしろいつも明るい光に包まれていた。今日は曇りだから少しだけ境内が色あせて見える。 どんな時も、ここの赤い鳥居をくぐると空気がピンと張り詰めて心が洗われるような気持になった。 私は裏手に回ると、いつもの場所に腰を下ろした。 久しぶりに全力疾走したもんだから息が大きく上がっている。 深呼吸をして呼吸を整えた。 頭の中がぐちゃぐちゃにかき回されているような感覚だ。 お母さんとお父さんは恋愛結婚だったと聞いている。今でも娘の私が恥ずかしくなるほど仲がいい。 普段はぼさぼさの頭をして、黒縁眼鏡をかけてクタッとしたスーツを着て出勤するお父さんはどっからどう見ても、くたびれたオジさんだ。 私立の高校教師をしているけれど、うだつかあがらなくて、隣の高校に通っている私の耳にまで授業は面白いけど、ビジュアルが酷すぎると伝わってくるほどだ。 けれど、うちのお父さんは近所じゃ類を見ないほどの整った顔立ちをしている。 キチンと前髪を上げて、素顔をさらせばきっとあの子達だってそんな陰口は叩かないはずだ。 なにしろ迫力があるから、一度見たら忘れられない格好良さなんだ。私の自慢のお父さんだから、陰口を叩かれる度に相手を殴りたくなるのを押さえていた。
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