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「こんばんわ、橘さん。家、この近くなのかな?」
振り向いた先にはバイト先の先輩でもあり、大学の先輩でもある和泉先輩が立っていた。
和泉先輩は男性とは思えない中性的な雰囲気で細かい気配りができる人だ。私が困っているといつも一番に察して助けてくれる。
歌舞伎役者みたいにすっと流れるような鼻筋に、切れ長の瞳がさらに中性的な雰囲気を強めている。
白のカットソーに、ブラックジーンズは端正な顔立ちの先輩に清潔感を上乗せさせていた。いっつもお洒落なんだよなぁ。自分になにが似合うか熟知している人の格好なんだよね。
「こんばんわ。あれ?まだこんにちわ、かな?こんなトコで会うとは思いませんでした!そうなんです。家が近いんですよ。先輩もこの近くにお住まいなんですか?」
「そう、すぐそこのマンションに住んでる。イラジャウッドって分かる?ちょっとオリエンタル風の変わったマンション」
その言葉にさらに驚いた。
「私もそこのマンションに住んでるんですよ!スッゴい偶然ですね!」
和泉先輩も目を見張って驚いた。
「橘さん、地方出だよね?家族で越してきてるの?それとも親戚の家?」
「親戚の家です。伯父さんに面倒見てもらってるんですよ」
そういっておけば、変な目で見られることはないだろうと思ってそう言ったけれど、ちょっと虚しくなってしまった。
例え、巽と一緒に住んでるからって分かったとしても、変な目で見られることはないと分かっているからだ。
それだけの年の差が心に棘をさす。
私は他人の心うちですら、巽の恋愛対象になれないんだから。
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