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「橘さん?どうかした?」
和泉先輩の声にハッと上の空になってしまっていたことに気づいた。慌てて笑顔を作る。
「いえ、ごめんなさい。なんでもないんです」
「そう?あぁ、明日のシフトまた一緒だったよね。榊さん風邪でノックアウトって聞いた?」
「いいえ?榊さんって確かシェフの?」
頷く和泉先輩に、ちょっと恐そうな榊さんを思い出した。全然シェフに見えないし、口が悪い榊さんとはあまり話をした事はなかった。
私は今、学校の近くの小さなレストランでバイトをさせてもらっている。
こじんまりとしていて、オーナー夫妻の趣味がちりばめられている。ログハウスをレストランに改装したお店だ。
小さいといっても、二十席はあるからそこそこの忙しさだったりする。
私はウェイトレスをしている。和泉先輩も一緒だ。
アルバイトは5人で、女の子があと二人とシェフの榊さんだ。私は和泉先輩と同じ時間に入ることが多かった。
「じゃぁ、オーナーが一人で切り盛りしてるんだ。大変そう」
「そう、だから明日は少し俺も厨房はいることになるかも。橘さんホール、一人で大丈夫かな?」
心配そうな表情に笑顔で答えた。
「大丈夫ですよ!もう、一ヶ月たちましたから!ちゃんと仕事覚えました」
和泉先輩の心配もわかる。
私、よく首にならないなぁと自分で思うほど色々壊してるから。
オーナー夫妻が優しい人でよかったよホント。
その時、和泉先輩の目が大きく見開かれて私の頭を通り越してガラスの向こうを見た。
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