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文に言われてから、すぐには変わりはしなかったものの……太助が変わるきっかけを与えたのは、間違いなく彼女だった。
「そういえば……あの時の文さんも、お姉さんモードでしたね……」
いつもの明るい文さんしか見てない人からすれば、(こう言うと文さんには怒られそうですけど……)とても信じられないような真面目で真剣な文さん。
まぁ、どちらかと言うと、私の感覚としてはお姉さんって言うよりお母さんの方が近い気はしますけど……
と、そこまで思ったところで、門の扉が開け閉めされる音が聞こえてきた。
そうでした……今日はたくさんお客様が来るんでした。
確か、文さんの次に来るのを予知し(み)たのは……
「お邪魔します、太助さん。庭のお手入れに来ました」
おかっぱにした銀の髪に黒のリボン、ブラウスの上に緑のベスト、緑のスカート。そして脇差しと太刀を携えた少女、魂魄妖夢が、彼女の半身たる半霊を連れて外に立っていた。
「いらっしゃいませ、妖夢さん……
今日もよろしくお願いしますね……?」
「はい、任せて下さい!」
そんな元気のよい返事と共に、妖夢はどこからともなく箒や枝切りばさみ等を取り出して駆けて行った。
「毎度の事ながら……本当にどこから箒とか出してるんでしょうか……?」
この縁側付近に何か仕掛けでも在るのか、と調子が良いときに調べたものの、特に無し。
本人曰わくそれらは自分が愛用している物で、これでないと納得のいく出来にならないのだとか。
ならば、どこにしまってどこから取り出しているのか、と訊くと、「庭師の嗜みですよ?」としか返って来なかった。
他の知り合いにも、どこに持っていたのか、と訊きたくなるような物をぱっと取り出す者が数人おり、それぞれが嗜みだと言うのを見ると、何時の間に嗜みと言う物は良く分からない収納技術を表す様になったのか、と思わずに居られなかった。
「太助さん、お粥出来ましたよ?」
外に顔を向けて考えを巡らせていると、廊下に繋がる襖が開き、土鍋を持っている文が入って来た。
「ありがとうございます……文さん……」
「いいですよ、別に。」
文は嬉しそうに布団の脇に土鍋を置きながら座り、土鍋の蓋を開ける。そして、レンゲでお粥を掬い……
「ふー…ふー…
はい、あーん♪」
それに息を吹きかけて冷まし、太助に笑顔で差し出した。
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