人里の友人達。

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人里に建っている、他に比べて大きな屋敷、稗田邸。 この屋敷の今代の主たる稗田 阿求は今、ワクワクそわそわと落ち着きの欠片も見ることが出来ない様子で座っていた。 「文さんはまだでしょうか……?」 彼女が待って居るのは、ブン屋をしている鴉天狗の射命丸 文……正確には、彼女が持ってくる事になっている、太助の写真である。 『くだんのくだん』の会長たる彼女は、名誉顧問の文が撮ってくる太助の写真を一番最初に見る権利がある。 そして、今日こそがその文が写真を持ってくる日なのである。 ファンクラブ会長という地位にある阿求が、そわそわそわそわと落ち着けないのも当然というものだった。 「っと、お邪魔しますね?阿求さん」 「しゃ、射命丸さん!待ってましたよ、さぁ、上がっていって下さい!」 しゅたんっ!!と音を立てながら庭に着地した文に、阿求は『待ってました!』という雰囲気も隠さず、部屋に上がるようにと誘い、お茶の用意を済ませる。 「あやややや……毎回の事ながらどうもありがとうございます、阿求さん」 何処からともなくお茶菓子として切った羊羹まで取り出し、お茶と共に文が座っている場所の手前に差し出すのを見て、文は軽く笑顔を浮かべながらそう言った。 「あの、それでですね、写真の方は……どうでしたか?」 「ええ、ちゃんといいのを撮って来ましたよ?」 ポシェットから封筒に入れられた写真の束を取り出し、先程の阿求と同じように、阿求の少し手前にそれを置く。 「ありがとうございます、射命丸さん! 来た来た、来ましたよ~っ!毎月の楽しみが!」 その置かれた封筒を、抑えきれない、といった様子で手に取り、写真を取り出す。 「っきゃ~~っ!可愛い!! しかも、寝顔だなんて!今度の定例会は荒れますよ~っ!!」 ただでさえ、普通の日常を送っている様子の写真でも熾烈な争いが起こる。それが寝顔の写真ともなれば、その取り合いは壮絶を極めるものだろう、と言うのは想像に難くない。 何せ、ファンクラブのメンバー達の中では、太助の写真一枚が五百円や千円で取引されるなんて事もざらである。 そんな彼らが、太助の一月の間の様子を知る事ができ、そして……ただで、かつ、綺麗に写った写真を手に入れられる定例会。 どうなるかは、火を見るより明らかである。
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