件の友人。

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妖怪の山。 幻想郷の中でも屈指の数の妖怪が存在し、天狗達の警備によってほとんどの人間は入り込めない土地。 この山の中腹付近に、庭が付いた小さめの平屋建ての家がある。 そこまで小さくは無いが大きくもない、そんな大きさの門をくぐり、一人の少女が縁側に向かって行った。 それは、玄関から呼びかけてもこの家の主が出て来られない事が多い事を知っており、かつ仲の良い関係であるが故の行動だった。 しかし、縁側のある部屋……彼が1日のほとんどの時間を過ごし、寝室でもある部屋の障子が閉まっているのを見て、首を傾げた。 「あやや……太助君はまだお休みなんでしょうか? 日が登ってから、もうけっこう経ってるんですが……」 白い半袖のブラウスの襟を黒いリボンで結び、フリルの付いた黒いミニスカートを着て……背から黒い羽根の翼を生やし、同じように黒い、肩にかかるかどうかという程度の長さの黒髪の少女。 その少女は頭を軽く掻き、どうしたものか、と考えを巡らせる。 この家の主とは友人と言える関係で、多少なりと気心の知れた仲ではある。 が、親しき仲にも礼儀ありとも言う。特に彼がまだ寝ているかも知れないともなると、余計に気が引けると言う物だ。 「霊夢さんとかだったら、別に気にしないんですけどねぇ……」 と呟き、幻想郷に古くからある神社、そこの今の巫女を思い出しながら笑みを浮かべる。 しかし、彼女のように丈夫な人間ならばともかくとして、彼は体が弱い。無理に起こしたり、体を動かさせるわけにはいかないのだ。 「ま、いいでしょう。 起きてるならばそれでよし、寝てるなら寝顔を激写してからバレないように退散すればいいだけですし。」 ポシェットに入れたカメラを外から軽くなで、そう言った少女は静かに障子を開け、中を覗く。 すると、その部屋の中心には布団が敷かれており、そこに彼が寝ているのが目に入った。 黒髪の長さは少女より少し長く、背中まであり、中性的……と言うにはやや女の子めいた顔。身長は140cm後半程度で、全体的に華奢な体つき。知っている人でもなければ、女の子と見ても何ら不思議では無い容姿。 幻想郷に居る妖怪の中では、新参の部類に入る少年、『件』、一野太助が、そこで眠っていた。
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