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「じゅるり……おっと、ついよだれが垂れる所でした。
いやぁ、相変わらず食べちゃいた……じゃなくて、可愛らしい子ですねぇ……病弱な所もまたそそりますし。」
よだれが垂れそうになった口元を右手の甲で軽くこすり、ポシェットからカメラを取り出す。
少女は太助の目を覚まさせないようにフラッシュをoffにし……
カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャッ!!
あらゆる方向、角度から写真を撮り続ける。
「ふむ、この角度は素晴らしいですね。ですが、こちらも……うむむ、どれがベストショットでしょうか?悩みますね……」
眠っている幼気な少年の周りをぐるぐると回りながら、色々な角度から顔を覗き込んでいる少女の様子は、どこからどう見ても不審者である。
「ふむ、やはりここですね。」
やがて納得がいく場所を見つけたのか、写真を撮ってホクホク顔の少女。
「太助君の非公式ファンクラブ『くだんのくだん』の定例会では、絶対に一番良い写真を出したくありませんしね。こればっかりは撮影者の特権というものです。」
一野太助非公式ファンクラブ、『くだんのくだん』。
元々は、幻想郷に来る妖怪としてはレアな『件』という種族の情報が少しでも欲しいと、幻想郷縁起という妖怪の図鑑のようなものを纏めている一族の当主、稗田 阿求が、彼女……射命丸 文に太助の写真を頼んだのが事の始まりだった。
その写真を初めて見た阿求は、まるで雷にでも打たれたかのように固まった。
その後、阿求はあちらこちらで写真を眺めては溜め息を零すようになり、その写真を見た他の者にもそれが感染。何時しか、非公式ファンクラブが出来上がっていた。
ちなみに阿求は会長で、太助の姉的存在の慧音と文は名誉顧問という地位に収まっている。
実際の所、慧音は元々ファンクラブに関してあまり肯定的では無かったのだが、定例会は人里で行われるので、慧音はあまり頻繁には会えない太助の状態を知る為に丁度良いと判断し、名誉顧問という地位を甘んじて受け入れた訳である。
「さて、そろそろお暇しましょうか……あや?」
渾身のベストショットを撮り、満足した文が写真を撮る為に座っていた布団の脇から立ち上がろうとした時、スカートが少し引っ張られる感覚がして動きを止める。
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