件の友人。

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「あの……もう、帰られるんですか……?」 静かで、かつ弱々しくも聞こえる可愛らしい声が、少しばかりの悲しさや寂しさを伴って文の耳に届いた。 「あ、あややや……起こしてしまいましたか?」 「いえ……元々、今日は二度寝でしたから……何だか、今日は朝になっても眠くて……」 「あはは、そうですね。 私も、今朝は眠くて大変でした!いやぁ、春眠暁を覚えずってやつですねぇ~」 布団の脇に座り直した文は、太助が柔らかい笑みを浮かべたのを見て、自分でも笑顔になるのを感じた。 「(太助君の笑顔は、何と言うか……ほっこりとした気分にさせられるんですよねぇ……)」 いつも、太助の笑顔を見ているといつの間にか自分も笑顔になっている。 見ている者を、自然と笑顔にする。そんな魅力が、太助にはある。 ファンクラブ会員にもそんな所に惹かれて入った人は少なからず居ると、文は考えていた。事実、文はそういった感想を聞いた事が有った。 「そう言えば文さん……今日は、朝からどうなさったんですか? 私……何かお願いしてましたか……?でしたらすみません、朝から来ていただくなんて……」 「え?あぁ、いえいえ。特に何も頼まれてはいませんよ? ただ私が来たくなって来ただけなんですから、何も謝る必要はありませんし、謝られるとむしろ私が困ってしまいます。」 「そう……だったんですか?すみません、せっかく来て下さったのに不快な思いを……」 布団から上半身を起こし、軽く俯いたまま謝る太助の言葉を聞き、文は静かに唇を開いた。 「何とも思っちゃいませんよ、太助君。嫌な思いなんて、これっぽっちも感じちゃいません。 それより、そのネガティブと言うかへりくだったと言うか……何でもかんでも『自分のせいで』っていうふうな考え方、止めた方が良いですよ? 他の人を気にかけるのは良いことですし、そこが太助君の良い所でもありますけど……気にし過ぎても疲れてしまうものですしね。 これからは、私に対してだけでも『ごめんなさい』も『すみません』も禁止です。分かりましたか?」 「あの……えっと…… ありがとうございます、文さん……」 「よろしい♪ それじゃあ、私も今日はお姉さんモードはここまでにしましょうか! これからは楽しくお話……と思いましたが、起きたばかりでしたね。ご飯を作って来ますから、少し待ってて下さいね?」
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