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「えっと、あの……すみまあぅっ!」
「だから、すみませんは無しですよ?
まったく……太助君は、少しは甘える事を知った方が良いですね。」
立ち上がった所で太助がすみません、と言い切る前にでこぴんで止め、左手を腰に添えて右手の人差し指を立てながら、額をさする太助に文は言った。
「その様子だと、慧音さんにも甘えた事は無いんでしょう?」
「だって、あの、慧音さんに迷惑がかかりますし……」
「はぁ……だからですね、太助君は、迷惑がどうとかを気にし過ぎなんです。少しはわがままを言うくらいの方がいいと思いますよ?
特に慧音さんなんて、太助君にとってはお姉さんみたいなものじゃないですか。少しくらい甘えた方が、慧音さんもきっと喜びますよ?」
「そう、でしょうか……?」
太助の静かな疑問の声に文は「ええ、きっと。」と軽く頷き、廊下に続く襖を開く。
「それでは何か作って来ますから、少し待っていて下さい。」
「あの……えっと……その……」
「あや?どうかしましたか?」
「あの……卵が入ったお粥、お願いできますか……?」
太助が顔を少し赤らめながらそう言うと、文はきょとんとした顔になり、やがて笑顔になる。
「ふふっ……分かりました、太助君。」
それでいいんですよ、と言い残し、文は廊下に出て行った。
「甘える、かぁ……」
今までしたことの無い『甘える』と言うことに、太助は少しばかりの抵抗を覚えた。
確かに今まで、どうしても出来ない事は他人に手伝って貰って来た。
しかし、幻想郷に来たばかり、八雲 紫からこの家を貰ってすぐは特に、庭の手入れなどの専門的な事はともかく自分の事は多少の無理をしてでも自分で済ませていた太助にとって、自分の事を他人に任せるというのはしようとも思わなかった事だった。
件は人を助ける妖怪だから、逆に助けられる事が無いようにしないと。
この家に住み始めた頃の太助はそう考え、他人に迷惑のかからないように、多少の無理をしてでも自分の事は何でも1人でこなして来た。
そんな太助が前よりも他人に頼るきっかけになったのも、先程と同じように彼女……射命丸 文の言葉がきっかけだった。
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