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俺がまだ江戸に居た頃。
海に行った。
なんとなく。
本当に、なんとなくだ。
あえて理由を付けるなら、静かな場所に行きたかったから。
あれは、何刻頃だったか。
日は既に沈んでいたから、辺りは暗かったな。
季節は確か……。
そうだ、肌寒い、冬だった。
提灯片手に海に向かった俺は、着いてすぐに浜辺に腰を下ろした。
海風が冷たくて、肌がピリピリしていたのを覚えている。
耳に入るのは、心地よい波の音だけ。
人の声が聞こえない。
それは俺にとって、凄く気持ちのよい事だ。
はっきり言わせてもらうのなら、俺は、人が嫌いだ。
理由は一つ。
面倒だから、だ。
人付き合いとか、感情表現とか、全てにおいて面倒くさい。
その点、海は良い。
感情が無い。
誰かが言っていた。
“海にも、感情や表情がある”と。
馬鹿げてる。
海には、感情が無い。
俺はしばらく浜辺に座っていたが、体も冷えてきたのでそろそろ帰ろうと、立ち上がった。
いつの間にか、提灯の火は消えていた。
まぁ、そんな事はどうでも良い。
月明かりもあれば、地形も把握しているから、平気だ。
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