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星の光か、蛍の光か。
蒼白く宙を漂う光が、ふと見上げた夜空の星の如く、眼前を覆い尽くしていた。
視界に飛び込むその幻想的な景色は、闇の中に光があるというよりは寧ろ、光の中に闇があるようにも見える。
その風景に何とも不釣り合いで、それでいてどこか神聖さを感じさせる建物が、蛍の群れの中心に根を下ろしていた。
────サン-マルコ大聖堂
ヴェネツィア共和国北部に位置しているその大聖堂は、昼間ののどかなイメージとはまるで異なり、夜になるとなんとも不気味な雰囲気を醸し出していた。
「いいのですね?」
ほの暗い建物の中、燈された燭台の蝋燭の明かりに映し出される、二人の男。
そのうち、埃塗れのローブを羽織る白髪混じりの男は微かに笑い、もう一人の仮面の男へと訊いた。
「……はい」
そして、仮面の男は頷く。
深夜零時、ぼんやりとした闇の中で行われる信者達の集会。
神という理想を重視する思想から、人間そのものを重視する思想まで、あらゆる思想がいくつも生まれてきているこの時代。
もちろんその全てが善意によるものとは限らず、中には自らを神と称し、信仰者達に財を貢がせる者も少なくなかった。
スケィェル = ラ = ファイエット。
彼もまた、それが意味の無い事だと知りつつも、抉れた心の穴を埋めるべくある一つの教団に入信しようとしていた。
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