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日向 カイト /
もうすぐ日が沈む。
俺は真っ赤に染まる西の空を見ると、その視線を後ろへと戻した。
結局、俺たちは逃げただけだ。
「今はあの野郎を信じるしかあるめぇよ。ああ見えて、この中の誰よりも強いってのは、お前もよく分かってんだろ」
菊池聖夜。
確かにあの男は強い。
ギラーと対峙しても、まるで動じない強さ──あの男だけは、ギラーと互角に、いやそれ以上に渡り合えると確信できた。
だからこそ、俺たちは逃げてきた。むしろ、足手まといにすらなりそうだったからな。
だが、それでも──どんな言い訳を並べようと、敵を前にして、仲間を置いて逃げてきた自分が許せなかった。
「オズモンドのほうは?」
俺はその悔しさを振り払うように、ノブを見る。
ノブの大きな背中に担がれ、眠ったままのオズモンド。未だ、目を覚ます気配は無い。
「死んじゃいねぇが……急いだほうがいい」
“北”のメンバーには治癒系の能力者の女子高生がいたはずだ。
彼女さえ生きていれば、オズモンドを助けられる。
あちこちに視線を巡らせるが、俺たち以外の人影は見当たらない。
どっちを見ても砂漠。
かなり先へ行ってしまったようだ。
それに……
「本当にこっちなんだろうな?」
俺は志穂とワニに視線を向け、三度目になる同じ質問を投げ掛ける。
「たぶんって言ってるでしょ! あたしだって、必死だったんだから、そんな言い切れないよ!」
篠山苺がいなくなった。
ギラー襲撃の際に人混みに飲まれたのを最後に、誰も彼女を見ていない。
おそらくは、茂木浩太や他の参加者と一緒に逃げている最中なのだろうが、彼らの動向も依然として掴めないままだ。
北へ向かったのか、南へ向かったのかも分からない。
「どっちにしろ、アタシたちは北へ向かうしか無いだろ?」
そう言うアンナの表情も険しい。
彼女の話によると、浩太の後を追い、護衛するようにプログラミングしたミーアキャットが全滅したらしい。
確かに、ミーアキャットの戦闘力は高いとは言い難いが、それでも敵の存在があったことは事実だ。
「クソ……」
不安要素ばかりじゃないか。
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