終わりへの始動

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静寂だけが、全てを物語っていた。 懐かしいとさえ思える静けさに、身を委ねるように俺は目を閉じる。 息を大きく吸い込み、吐き出す。 ギラーの手に握られたままの“草薙之剣”を見つめる。 もう誰にも頼らない。 俺は、この力で──仲間を守る。 「おおぉおおぉおおおぉおぉぉ!!」 その決意を胸に、俺は空に吠えた。 この咆哮に何の意味があるのかと問われれば、正直答えられる自信は無い。 ただ、叫びたかったのだ。 次は、最北だ。 全ての決着を、そこで着ける。 そして、本当の自由を手に入れる。 クリスや柴、パンプキン様が届かなかったその光に、俺たちが手を伸ばす。 この叫びは、空の彼方にいるであろう仲間たちに伝わっているだろうか。 この歓喜を、彼らは分かち合ってくれているだろうか。 「見守っていてください」 パンプキン様…… そして、この島で絶望を見たままに散った、全ての人々…… もうすぐ…… 「もうすぐ手が届きそ、う……?」 呼吸が、止まった。 それは、あまりにも唐突であまりにも呆気ない出来事だった。 「……え、あ……え……」 視線を下にずらすと、俺の胸元から真っ赤に染まった腕が伸びていた。 その手が握るのは、健康的な色合いを保ったままの──俺の心臓。 頭の中が空白で埋め尽くされる。 死が全てを奪い取ろうとしていた。 記憶、思い出、俺の存在そのものを。 真っ白に。 ただどこまでも沈黙を貫くだけの白に、俺の存在が飲み込まれるのを、俺は立ち尽くしたまま、待つのみだった。 「あ、ああ……」 口元からじわりと流れ出た血が顎を伝い、だらりと地面に垂れた。 死ぬのか、俺は。 何故。 どうして。 何で。 沢山の“?”ばかりを残して、俺は地面に倒れた。 しかし、すぐに悟る。 その“?”に意味は無いのだと。 俺はもう、死ぬのだから。 「キャハハ、ここでご退場願いまーす!」 急速に消えてゆく意識の中で、俺の耳には無邪気な笑い声だけが木霊した。
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