18149人が本棚に入れています
本棚に追加
一三四 仁 /
テトラポットの山の中で見つかったのは、小さな子供の遺体──篠山苺の亡骸だった。
すっかり冷たくなってしまったその身体は、胸を真っ赤に染めていた。
まるで、素手で心臓を貫かれたような風穴だ。
「誰がこんなことを……」
ワニが歯ぎしりの音がここにまで聞こえた。
やるせない。
この女には私怨があるが、あの城での件もどうこう引きずるつもりは無かった。そもそも記憶を失っているのだから、ただの子供だ。
「見たところ、死体はこれだけだな」
「快楽殺人者か、変態か……」
「もしくは──運営か」
限り無く、運営である可能性が高い。
あの緊迫した状況の中、他の人間の目を盗んで、一人の少女を殺して、ここに捨てるというのにはずいぶん無理がある。
もし、そうだとしたら、絶望的なまでのサイコパスだが。
「クソ、誰が……」
ワニがまた呟いた。
浩太の面倒も見ていたというし、子供が好きなんだろう。もしかしたら、人間だったときは子持ちだったかもしれない。
それゆえに、誰よりも許せない。
「誰が殺ったか、なんてことは今は問題じゃないだろ?」
俺はいつまでも鳴り響く歯ぎしりに見かねて、口を開いた。
「そんなこと、どれだけ考えようが、答えは出ない。重要なのは、奴がどこへ行ったか、だ」
カイトが深く頷く。
「ワニ、ニオイは?」
ワニもようやく気を取り直し、例によって鼻を動かす。
しばらくの後、ワニが首を横に振った。
ワニの嗅覚でもダメか……。
「丁寧にニオイを消したか、瞬間移動でもしたか」
瞬間移動というワードに、アポロの顔が思い浮かぶ。
その可能性も否定できない。
「北へ行こう」
喉元でずっとつっかえたままだった言葉は、すんなりと大気を伝った。
「何にせよ、俺たちは知らないことが多すぎる」
俺はこの場にいる全員の顔を見渡す。
他の参加者の動向は依然として不明だが、結局は“南地区”の面子だけになってしまった。
「篠山を殺した犯人も、運営の招待も、誰が何のために、こんなことを目論んだのかも……きっと、この先に──最北の本拠地にあるはずだ」
謎の答えが、多くの真実が、そこにあることは間違いない。
「そう、だな」
カイトが歩み出た。
「他の参加者も、恐らくはそこを目指すはずだ──俺たちも、北へ行こう」
.
最初のコメントを投稿しよう!