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髪を手ぐしで整えて入れ替わりでやって来た仲間に先帰ると声を掛けて小走りでコートを出る。 冬の太陽は午後になると金色の輝きで周りを照らす。木漏れ日の美しさを横目に見え隠れする遠藤講師の元へ息を整えて歩み寄る。 丁度彼女も空を見上げて眩しそうに手で影を作りながらジッと佇んでいる。同じように光の美しさに感動しているのだろうか。 ふと、俺の気配に気が付いたようにこちらに視線を向けた彼女は表情の抜け落ちた顔をしていた。だが、直ぐに俺に気付くとニッコリと笑みを浮かべた。 あれは作り物、とまではいわないけれど自分の外側にいる人間に対しての笑顔だ。塾の生徒に向ける笑顔。 その事実に胸がキリキリと痛んだ。 どうしようもない歳の差、縮まらない距離。仕方ないものだけれど、どうにかしたくて苛立つ。
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