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こんなにも惹かれるのに、まるで相手にされていない虚無感に自分が無力な子供だと思い知る。 「早かったね。」 俺に歩み寄った彼女は優しく声を掛けてくる。でも、素直に返事の出来ない俺は硬い口調でお待たせしてすみません、と頭を下げる。 でも、そんな俺の抵抗にも彼女は微笑ましそうにする。 「テニス、凄く上手なんだね。ビックリした。」 「そうでもないです。あ、自転車取ってきます。」 俺が指差した方向を見て、彼女は懐かしそうな表情でグランドを見つめる。グランドの端に置かれた自転車は昔、彼女も同じように停めていたのだろうか。 自転車を押す俺の横に立ってゆっくりと歩く彼女はリラックスして中学生の俺と会話を楽しんでいる。それが嬉しくて悔しくて、俺は彼女の顔を見る事は出来なかった。
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