ポインセチア

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そんな他愛ない話に盛り上がっていたのに、さっきから健吾だけが静かにビールを飲んでいる。 「健吾どうした? 今更ちえに見惚れるとか止めてくれよ。俺帰るぞ」 「バカ、そんなんじゃないよ」 揚げたてのから揚げを頬張りながら、そんな風にじゃれている2人を見るのもやっぱり高校生以来だから楽しい。 だけどそんな空気を壊したのは、さっきまで静かだった健吾だった。 「あのさ、新しい仕事でしばらく世界中を旅することになったんだ」 「どれくらい? 半年とか?」 「いや、わからない。いい写真が撮れるまで何年かかるかわからないけど、最低3年って言われてる」 冗談かと思ったけど、健吾の目は全然嘘なんて言っていなくて、さっきまで楽しく笑っていたのが嘘のように、何も考えられなくなってしまった。 「もしかして、その話をするつもりで俺呼んだわけ?」 ばったり駅で会ったんじゃなかったの? さっき健吾から聞いた話と違う。 「ねぇ、どういうこと?」 話の意味が理解できなくて、不安で仕方ない。 胸の奥でどうしようもないほどの恐怖が胸を締め付けているから、絶対このあとの言葉は聞いちゃいけない気がする。 でも、聞かずにはいられない。 .
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