ポインセチア

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苦笑いを零す健吾の目は、何故か私の後ろの健太に注がれて。 「そっか。あ、この子は健太。2歳なの」 寒さで真っ赤な頬をした健太を抱っこして健吾に向き直る。 「結婚したのか……」 それは諦めにも似たため息と共に吐き出された。 「……て、ない」 「え?」 「……結婚なんてしてないよ」 名前を聞いても気付かないものかな? しかも昔の健吾にそっくりなのに。 それでもこれから活躍するであろう人の重荷にはなりたくなくて、精一杯の意地を張る。 「この子と2人だけど、すごく幸せだから心配しないで」 涙を見られないように背中を向けて、健太をぎゅっと抱きしめる。 「ちえ……」 「そろそろ寒くなってきたから帰るね」 呼び止める声を振り切るように、公園を出ようと歩き出した。 「パパ……」 それは腕の中の健太が発した言葉。 今まで一度も言ったことがなかったのに……。 そういえば高校の頃の写真を見せては、聡が『こいつが健太のパパだよ』って教えていた気がする。 .
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