チューリップ(黄色)

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いつもよりちょっと客足の増える金曜日。 混む時間に備えてグラスの用意とアイスを確認して、BGMを少しアップテンポなものに変えた。 今日は珍しく店に花が飾ってあって、ちょっと落ち着かないのは気のせいということにしよう。 開店前に、俺のファンだという隣の花屋の奥さんが、誕生日プレゼントだと言って色とりどりのチューリップの花束を置いていった。 いつ俺の誕生日を知ったのかとちょっと怖くなったけど、親父の代からの付き合いだからと言われて、犯人が親父とわかって安心した。 ただ、俺に花って……はっきり言って柄じゃない。 帰ったら晴子にやるかな。 鼻歌交じりにカウンターを拭いていると、今日一組目の来店を重いドアが告げる。 「お、いらっしゃい」 「陸さ~ん、ビール4つね~」 常連のグループがやってきて、奥のテーブルに着いた。 すでに一杯やってきたのだろう、上機嫌でコートを脱いで笑っている。 注文通りのビールとナッツ類をテーブルに運び、踵を返したところでまた重たいドアが開いた。 .
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