チューリップ(黄色)

5/10
前へ
/210ページ
次へ
ふとグラスをさげてカウンターに戻ると晴子の姿がない。 化粧室か……。 晴子の同僚たちの前に立って作業をしていると、先輩の石橋が後輩になにやらいやらしい笑みを向けている。 「園田、お前もうちょっとしたら1人で帰れよ。あいつは俺が連れて帰るから」 「え、やっぱり2人はそうなんですか?」 そうってなんだよそうって! 内心穏やかじゃないけど、聞こえてない振り聞こえてない振り。 「まだだけど、今日落とすから邪魔するな」 「了解しました」 子供じゃないんだから敬礼はないだろう。 心の中で突っ込みを入れながらグラスを磨く。 「マスター、彼女が戻ってきたらちょっと強めのお酒お願いします」 「畏まりました」 普段こういった頼みごとは受けないんだけど笑顔で答え、それこそ悪代官並みの悪い笑顔にこっちが笑いそうだ。 .
/210ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2760人が本棚に入れています
本棚に追加