チューリップ(黄色)

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どっちにしても次くらいに晴子自身がマティーニあたり注文するだろうし、何気に彼女はそこらの男より酒に強い。 万が一酔っ払ってもこんな奴に渡さないけど。 今日は俺の部屋に来ることになってるんだから。 そんなことも知らずにテンションをあげている男にいたずらしたくて、カウンターの奥に飾った隣の奥さんから貰った花束から、黄色いチューリップを一輪抜き取った。 「俺からのプレゼントです」 「え?」 一瞬きょとんとしてたけど、受け取って黄色いチューリップを眺めている。 幸せな奴だ。 「初めて来て頂いた記念に」 きっと2度と来ることはないだろうけど。 「どうも」 晴子は花言葉に詳しいから、これ見たら笑うかな。 ようやく戻ってきた晴子は、一瞬石橋の手の花を見て驚いたが、俺の顔を見てクスリと笑った。 「石橋さん、そのお花似合いますね」 「そうか」 石橋の手からするりと抜き取ると、彼の胸ポケットに挿した。 ちょうどネクタイが黄色系だから余計バランスがいい。 .
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