紫陽花

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紫や青の紫陽花に混じって、真っ白な紫陽花が雨を全身に受け止めて、キラキラと輝く。 溢れるほどの雨が似合う花。 「紫陽花かぁ、なんか泣いてるみたいで好きじゃないな」 小さく呟くと、先客の同僚がクスリと笑った。 「戸田君でも、花を見て物思いにふけったりするのね。禁煙してたんじゃなかったの?」 「ほっとけ」 「でもね、紫陽花ってけなげな花なのよ。毎日色を少しずつ変えては私を見てって努力してるのよ。『移り気』だとか言われたりもするけど……」 「じゃあ、こっちの白いのは?」 真っ白な紫陽花を顎で指して問う。 色とりどりの花達とはまったく違う、何ものにも染まらない白い花。 .
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