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「早苗ちゃんみたいな花ね。ひたむきで、他の色とは違って可憐だわ」
確かに白い紫陽花は雨が似合うけれど、寂しさがない。
いつも笑顔の早苗を思わせる。
「同じ泣くにしても、白はうれし涙かもしれないわね」
ふふっと笑って同僚はタバコをもみ消す。
「花のことはわからないな」
降参とばかりに戸田はタバコの煙を吐き出して、手を振って休憩室を出て行く同僚の背中を眺めていた。
「戸田さん、まだここにいたんですか! もう出掛けないと、契約破棄されますよ!」
入れ替わるように休憩室に入ってきたのは、今話していた話題の人、早苗で。
「もうそんな時間か……。わかったわかった、今行くから」
もう一度テラスの紫陽花をちらりと見て休憩室を出た。
「戸田さん、寝癖直して髭剃って行って下さいね」
「はいはい」
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