紫陽花

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ひらひらと手を振って出掛ける準備をする。 「戸田さん、頑張ってくださいね」 「あぁ」 ちょっと面倒臭そうに返事をして、取引先に向かいながら、『ひたむきで、明るい』、同僚が言った言葉が頭をよぎった。 「確かにひたむきかもな、馬鹿みたいに明るいし……」 ………。 翌日出勤すると、少しいつもと違う空気に不思議に思いながらも、その原因が何かわからず自分の席につく。 いつもこのタイミングで届くはずのコーヒーの香りがしない。 「……?」 そしていつもの声がしない。 『戸田さん、おはようございます。コーヒーどうぞ』 『戸田さん、また寝坊ですか?』 『戸田さん、これチェックお願いします』 『戸田さん、寝癖直して髭剃って行って下さいね』 『戸田さん、……』 『戸田さん、……』 .
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