桔梗

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梅雨真っ只中なある日、兄の雅樹と一緒に取引先の社長との会食に出掛けた。 退屈な用件に飽き飽きしながらも、仕事と割り切って耐え、そのまま帰るのも億劫で、1階ロビーで雨の中庭を眺めながら2人コーヒーを飲んでいた。 平日の昼間ともあって、サラリーマンが多いがその中に一際目立つ集団に目を奪われた。 髪を結い、淡い色の着物を身に着けた女性達。 黒っぽいスーツの男ばかりの空間で、とても華やいで見えた。 「着物か……。今ありさちゃんの着物姿想像しただろ?」 兄の雅樹も同じように思っていたようで、2人してしばらく眺めていた。 「ありさのほうが似合うけどな」 「はいはい」 呆れたように返されたけど、そんなことどうでもよかった。 .
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