初っ端からの王道祭り

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「仕方ねぇ、行くか」 気は乗らない。けれど、この世界に俺は喚ばれた。 俺は異世界ものが好きだ。だから、喚ばれて嬉しかった。その礼に、世界が望むことを一度だけしようと思う。 あとは知らない。異世界に憧れてはいたけれど、現代に不満があったわけでもなかった。俺の人生めちゃくちゃになったんだ、それくらい許して欲しい。 「さて、行きますか」 未来の勇者を助けにさ。 とん、と大地を蹴る。元々運動神経はよかったが、更に運動が出来るようになった気がする。身体が、軽い。 飛ぶように地を駆け、耳を澄ます。五感も発達しているようだった。異世界パネェ。 「おとなしくしろってんだ、クソガキが!」 「おい、傷はつけんなよ。値が下がる」 「あの商人ケチくせぇからな」 大樹の陰に身を隠して盗賊たちを盗み見る。どうやらあそこで蹲っている少年を、これから奴隷商人に売りつけるらしい。 相手は盗賊だし、ここは街中じゃない。殺しは、罪にならない。 けれど、心臓が少し騒いだ。 父さん、母さん、兄さん、姉さん。ごめんね。 「おっさんたち、随分楽しそうなことしてるねー?リディア王国は奴隷制度がないのをお忘れかな?」 「だ、誰だおまえ!」 「そうだねぇ、敢えて言うなら…」 あなたたちに慈しまれて育った俺は、今日、この時より。 「ーーーしがない魔神様だよ」 ひとをころしながらいきていきます。
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