383人が本棚に入れています
本棚に追加
「仕方ねぇ、行くか」
気は乗らない。けれど、この世界に俺は喚ばれた。
俺は異世界ものが好きだ。だから、喚ばれて嬉しかった。その礼に、世界が望むことを一度だけしようと思う。
あとは知らない。異世界に憧れてはいたけれど、現代に不満があったわけでもなかった。俺の人生めちゃくちゃになったんだ、それくらい許して欲しい。
「さて、行きますか」
未来の勇者を助けにさ。
とん、と大地を蹴る。元々運動神経はよかったが、更に運動が出来るようになった気がする。身体が、軽い。
飛ぶように地を駆け、耳を澄ます。五感も発達しているようだった。異世界パネェ。
「おとなしくしろってんだ、クソガキが!」
「おい、傷はつけんなよ。値が下がる」
「あの商人ケチくせぇからな」
大樹の陰に身を隠して盗賊たちを盗み見る。どうやらあそこで蹲っている少年を、これから奴隷商人に売りつけるらしい。
相手は盗賊だし、ここは街中じゃない。殺しは、罪にならない。
けれど、心臓が少し騒いだ。
父さん、母さん、兄さん、姉さん。ごめんね。
「おっさんたち、随分楽しそうなことしてるねー?リディア王国は奴隷制度がないのをお忘れかな?」
「だ、誰だおまえ!」
「そうだねぇ、敢えて言うなら…」
あなたたちに慈しまれて育った俺は、今日、この時より。
「ーーーしがない魔神様だよ」
ひとをころしながらいきていきます。
最初のコメントを投稿しよう!