383人が本棚に入れています
本棚に追加
/63ページ
「…魔神様は、本当にやさしくない」
「ははっ、魔人様のお供につく条件が易しいわけないだろ?それに俺が優しくないのは今更だ」
で、どっちを選ぶの?
なんて、聞くまでもなくわかっているけど。俺の条件を飲めなかったら、一人だもんな?
くすりと笑みを浮かべるのと同時に、少年の翡翠が俺を射抜いた。
腹は決まったようだ。
さあ、決まり切った答えを頂戴。
「…この世界の誰よりも強くなって、貴方を殺しに行きます」
哀しげに笑う彼に心を動かされないわけではないけれど、俺は既に戻れない所にいる。戻れたとしても、戻りはしないけど。
「それじゃ、君の名前を教えてくれる?」
「…ノア・シャイク」
「へえ、上流貴族光のシャイク家の御子息か」
「元、ですけどね」
この世界には、貴族というものが未だ存在している。
そのうち光を司るシャイク、闇を司るダークル、火を司るフレイリー、水を司るウォルタナ、風を司るウィンディ、雷を司るボルトニー、地を司るアースマンの七つの家が上流貴族とされている。
特にシャイクとダークルは王族に次ぐ家柄だ。
俺が助けた少年は、思っていた以上に高貴な方だったらしい。
しかし、これからギルドやら学園やら潜り込むのだし、そうなるとそのシャイクの名は邪魔でしかない。
そうなると、することは一つである。
「ノア」
「はい?」
「俺の名前は弥月・三笠」
「ヤヅキ…さま?」
「様はいらない。おまえの名前は目立ちすぎるからな、俺の姓を名乗れ」
ノアは何がなんだかわかっていないのだろうか、目をぱちぱちと瞬かせているだけ。
それも、少し経てば嬉しそうに笑ったのだけど。
「…僕は、家族として側にいてもいいんですか」
「俺を殺せるならね」
「わかってます。…約束、ですから。だから、」
その時まで、兄と呼んでもいいですか?
そう尋ねるノアに、心からの笑顔を向けた。
いいよ。君を実の弟のように可愛がって愛でてあげる。
世界の犠牲となった哀れな子を、俺の全てで愛してあげる。
期間限定、だけどね。
最初のコメントを投稿しよう!