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「何度も言ってるだろ?目立ちたくないんだ。それに、Sランクともなればクエストが討伐系ばっかりになる」
俺はこの二週間、盗賊だの山賊だの海賊だのの捕縛クエストしかしていない。
魔を司る者として、眷属である魔族を殺すなんて真似は出来ないから。
動物だったら普通に殺すんだけどね。これは生きる為に仕方ないと割り切れるから。
「…僕なんかより、何倍も強いのに」
「ランクを意図的に留める奴は俺の他にもいるだろ」
「珍獣レベルだけどね」
ノアのぶすくれた表情は直らない。そろそろ納得してくれないかなぁ。この問答にはそろそろ飽きた。
そう思うものの、本気で止めようとは思ってない。ノアは産まれてから15年、ずっと蔑まれて生きてきた。
人とのコミュニケーションの取り方がわからないのだ、この子は。この会話が、唯一覚えたコミュニケーション。だからこれを繰り返す。
そろそろ他のやり方も覚えてくるだろうし、その内やめるだろうから。
「おい、そこのガキ二人」
「あれ?アイシスじゃん、どうしたの」
「おまえらだろうが、俺に稽古をつけて欲しいっつったのは」
急に現れた不機嫌そうな顔の、橙色の髪と金の瞳の美丈夫は、そう言って溜息を吐いた。
彼はアイシス・スティーブ。このギルド『ドラゴンエッグ』のギルドマスターの弟にして火を司る炎帝だ。
炎帝というのは、ギルドに登録している魔法使いの内、最も炎の扱いに長けている者を敬意を持ってそう呼んでいる。
もちろん帝は各属性にいる。時と重力にはいないが。使えるのが推定三人じゃなあ(勇稀も多分使えるだろうから勝手にカウント)。
ていうか、それはおいといて。
「…頼んだっけ、稽古」
ノアと顔を見合わせて首を捻ったら、お説教された。
ちょっと忘れてただけなのに!
後で水責めの刑にしようと心に誓った。
ちなみにノアも据わった目をしていたことを追記しておこう。
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