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「待って。」
呼び止めようとすると、彼女は顔だけこちらに向けて言った。
「じゃあ、私もそっちへ連れて行ってよ。」
僕はいよいよわけが分からなくなってしまった。
そして、彼女は口元を歪ませて言った。
「そんなこと、やっぱり無理よね。」
その姿はどこか寂しげで、さっきよりも小さく見えた。
彼女は吸っていたタバコを後ろに放り投げた。
僕の足元に落ちたそれはまだ半分以上も残っていた。
先っぽはまだ火がくすぶっていて、誰かが始末しなくてはならなかった。
「それでも君がいなくちゃ僕は--」
居ないんだよ。
顔をあげたとき、彼女はもう濁った街に溶け込んでしまっていて、見えなくなっていた。
酔っているからだろうか、僕はこの場からふわふわと宙に浮いているような気がした。
再び足元に視線を戻す。
僕はまだ煙の上がる吸い殻を、
足でそっと揉み消した。
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