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「最新鋭の兵器を開発しても数揃えなきゃ意味ないしメンテするだけのパーツがなきゃ意味ないし。弾薬も食糧も医療品も大量になきゃ戦闘は継続できない。シグルドリーヴァには相当長期間耐えられる補給艦としての能力が、たぶんある。単独戦闘もできるかもだし、あれで飛ぶんだから普通の補給艦より相当頑丈そうだし」
「敵にしたくない」
戦争は能力もさることながら、結局は物量だ。
シルベルと戦争をしたら負ける。
同じことを考えたのか、文乃を見ると不安そうな表情で俺を見ていた。
こうしてワンピース姿の文乃を見るとそこら辺にいる可愛い女の子の様に見える。
10代を完全に棒に振ったらしく、彼女はまだ大学に在籍していてもおかしくない年齢だ。それなのに開発チームの実質チーフとなる天才性は時々こんな風に隠され、容姿に相応しくなる。
文乃が普通の女の子だったらと、考えたことはない。文乃は文乃でありそれを俺は……愛している。そんな当たり前のこと。
だがこの世界がもっと違ったら、とは思う。
この世界に戦争などなく、彼と彼女は純粋により洗礼されたものを求める。
そんな根本の矛盾を抱えたユートピアなど存在しないこと重々承知しているが、それでも考えてしまう。
彼と彼女は軍の開発プロジェクトで出会い、その中で惹かれ合い、その中はそれを快く思わない。
俺はちゃんとした応えを文乃に示していない。
しかし俺と文乃の仲は周りでは公認となっている。
“何もない”ことを条件に、俺達は黙認されている。
ワインを口にした。
「まだましなのは、あれが竣工したばかりだということだ。あれだけの新型だと運用に相当不安があるだろ」
「……わかってるじゃん」
文乃は目を伏せながら言った。
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