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「数年とかじゃまともな運用できないと思う」
言うと唐突に俺のワイングラスに手を伸ばし、文乃はそれを一気に飲み干した。大した量ではないが彼女にとってはそうでもない。
彼女が呑み込んだ言葉はだいたい予想できた。
グラスに継ぎ足すと文乃はもう一度一気に飲み干した。
それでもう限界だったのか文乃は俺に倒れこんだ。腕を回してそれを受け止める。そして彼女はそのまま眠り始めた。
軽く息を吐き、1人で続きを食べることとなった。
◆ ◆
文乃のかなり残った分も食べ、酔いを醒ます為に水に切り替えしばらくしても文乃は起きなかった。
「よく眠っているな」
マスターがにやにや顔で言ってきた。
「寝不足だろ。メカニックはよくやる」
「寝不足だと頭が回らないと教えてやったらどうだい」
「気になることがあると眠れないらしい」
「メカニックはみんなそんなことを言うな。そんなこと言ってるといつまでも眠れないだろうに」
違いない、と笑う。
「それでもこうも無防備になるのは中々レアだと思うが」
「無防備、そうだな」
俺に持たれ眠っている文乃の頭を撫でる。
そして試しに言ってみる。
「それで俺はどうしたら良いか?」
「心は決まっているのだろ」
「そうだ」
「なら1つしかないだろう。いつまでも半端にしないで。ここでやっている俺が言うとあれだが、軍の顔など見続ける意味はないだろう。理解しているのだろ? ゆっくりしていられる程、時間があるわけではないことを」
「わかってはいる」
基地に近く、常連のほとんどが軍人とか軍の関係者であるこのレストランバーの店員は軍関連、例えば開発状況はもちろん、戦争になりそうだとか情勢に関する話題などをすることは好まれない。機密事項があるかもしれないし差し出がましくなるというのもある。
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