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     ◆   ◆ 「……また」  オイルなどで汚れまくった繋、ボサボサの頭、小柄な彼女――文乃は格納庫の椅子にだらし無く持たれて呟いた。このタイミングで呟いたのは俺が来たからだろうから応えてやる。 「また、コンプレッサ?」 「ブレードが焼け焦げひしゃげてた。また、ね」 ふぅ、と文乃は溜息を吐いた。  簡易報告を済ませて俺はここにいる。時間としてはあまりなかったはずだが暑さにだれたのか文乃はもう休憩のようだ。 否、ここからが彼女の本番と言えよう。 「仮説。聞く?」 「ああ」  その為に来たとも言える。メカニカルなものでもなくとも何かの話を。 「まずは基礎のおさらい」 しかし本題までが長い。長くても良いが。 「純粋に推進力を生む術式がスラスタ……」 「スラスタの前部に高速触媒術式を組み込んだコンプレッサを配置する」 文乃のおさらいをすぐに盗った。 「それはスラスタ後部のタービンからシャフトされる。コンプレッサを通った水は水素と酸素に分解され、ノズル付近で連続的に点火、推力を得る」 「何故コンプレッサかと言うと?」 「実用性。……大気中の水蒸気の1気圧分では足りない。だが軍の要請は水を大量に積むな」 「わかってるじゃん」  伸びをしながら文乃は笑った。  いつものやり取り。少し前からそれに関してはわからなかったことがないがいつもここから入る。これは文乃の慣習だった。  そして俺と文乃の目標は、音速を超えるというというもの。 勿論プロジェクトには数多くの人々が参加していて、それに"音速を超える"だけなら成功している。しかしそれは実用性に欠けるものだった。
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