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「音速域で何らかの影響が触媒術式に与えられるわけではないのは多分そう。マッハ1.7までは既に試してある。熱耐久もクリアだしそっちのアプローチじゃないと思う。じゃあ何かって言うと物理的なアプローチ。前々から言ってたけど、やっぱりコンプレッサというのが悪いんじゃないかな」
「元も子もないな」
そうだけどね、と文乃は椅子から立ち上がった。腰を捻って俺を一瞥して文乃は歩き出した。何だか猫みたいだ。向かう先はエンジンを降ろされた試験機――晶雫。デルタ翼型で水平尾翼がない。鋭く硬い感じの飛行機だ。
機体形状自体は既に実用に堪えられるので、エンジンの問題がクリアできたら、恐らく世界初の超音速戦闘機としてこのまま量産に入るだろう。
「ブレードが焼け焦げていた、っていうのは正確じゃない。正確には焦げてひしゃげていた。じゃあ何でそんなことになったかと言うと水素燃焼に晒されたからってのは想像できる。だけど解析の結果、何か"燃焼"っていう半端な言い回しじゃなさそうだった。"爆発"って感じだった。完全燃焼の2対1に近いような」
エンジンのひしゃげたコンプレッサブレードを文乃は撫でる。
「何でそこで爆発が起きたか。何で爆発となったか。それに加えてそのタイミングで爆発となったのは何でなのか。キーポイントはその辺。爆発、場所、時、それと流れ、音の壁」
仮説なんだけどね、と付け足すのを忘れず文乃は俺に笑いかけた。
そこに整備士の1人が書類を持ってきて「通ったぜ」と一言言って書類を渡し、指示を仰いだ。年齢的にも立場的にも逆のはずだがこういう構図になっている。紙の上では違うが実質は文乃がチーフみたいなものだった。
そして押し黙って書類を読み始めた。仮説の内容を考えてみろということ。
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