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持っている書類をひらひらさせて続ける。
「それでその検証試験を行うの。術式なしのコンプレッサスラスタを載せて補助ブースタ的なので音速を超える。新造品がちょっとあるから渋ってたけど何とか通した」
整備士が持ってきた書類がその関係書類らしい。
「パイロットは?」
一応聞くと即答で返ってきた。
「勿論貴方」
それから慌てたように付け加えた。
「帰還率100%なの貴方だけだから……。後でサインお願い」
「了解」
笑いながら応えた。
帰還率と言っても生存率のことではない。もっとも、個人に関して生存率が100を切っているのは、そいつはもう死んだか、有事の際には捕虜になっているかでおかしいが。
帰還率は滑走路にギアで着陸できた確率だ。
飛行機、とりわけ試験機や実験機の類だと予期せぬトラブルが起きやすい。エンジンの不調、舵の不調、トリムの誤算、ふざけた時だと翼が折れるとかエンジンが燃えるということもごく稀にある。
その中においても、データは極力回収したいので、トラブルが起きたとしても、その飛行機を操縦するのが初めてだったとしても、滑走路に降り立てる能力が求められる。
テストパイロットに必要なのはそれだけでは全然ないが、今文乃が言ったのはそのことだった。
少々怪しいが。
それからは、文乃は書類に目を通し、俺はエプロンに出て煙草を吸った。民間の、レシプロ機関を使っている格納庫程可燃物があるわけではないがしかし格納庫は禁煙だ。オイルもあるし、爆弾も扱うから当たり前だ。
ルーズな基地もけっこうあるが、ここでは文乃が吸わないので何となく禁煙が徹底されている。思わぬところで文乃の影響力が垣間見ることができる。本人はその辺が少々とぼけているが。
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