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「これ、シャワー浴び終わったら木滑に拉致られて、着せられた」 「……何かそんな気がした」 「前、デパートに連行された時に買わされた」  振り返ってみると文乃は夕日の光に照らされていてもわかるぐらいに赤面していた。 どうやら、今まで学校の制服以外にこういう恰好をしたことがないということらしい。 「似合うからそういうのもっと着たら良い」  だからというわけでもないが言ってやった。  文乃は微かに頷いた。      ◆   ◆  行先は特別なところでもない。よく行く個人経営のレストランバー。そこに着くまでは他愛のない電探の話をしていた。  木滑の黄色のスポーツカーを駐車場に止めてレストランバーに入るとマスターのおっさんやウェイトレスの姉さんを始め、見覚えのある数人の客が驚いた顔をした。 「あんまり流行ってないな」  無視してマスターに笑う。 文乃は視線に萎縮しきって俺の手を握った。 「向こうに新しいチェーンができただろ。気になってみんな様子見にいっただけさ」 マスターも笑い返した。 常連だけで構成されているようなものなのに危機感はないのだろうか。 「可愛い文乃ちゃんを独り占めかい? 羨ましいな」 「そんなこと言ってると奥さんに殺される」 軽口を軽口で返した。  カウンターに座って定食を頼んだ。 水の入ったグラスを2杯、すぐに出された。ウェイトレスの妙に嬉しそうな顔と供に。 彼女にワイン勧められて、気分も合っていたか追加することにした。それもすぐにきた。 「そんなに畏まらなくて良いのに」 「畏まってない」 「そうか」 笑って文乃の頭を軽く撫でた。文乃は何か言いたそうに口をぱくぱくさせたが、言葉が見つからなかったのか何も言わなかった。
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