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そこは、暗い暗い、誰も近づかない禁断の森。
行く手を邪魔する霧の中を進み、
無口で無愛想なお化け柳の木を右に曲がって、
不気味な風の音を聞きながら、
小さな花畑を通り過ぎ、
葡萄酒が流れる小川を渡り、
さらに奥の奥に進めば、
其処に現れる古びた小さなイド。
もう水など、とうの昔に枯れ果てているだろう。
その古びたイドの側に、1人の黒い少女が立っていた。
少女は華奢な身を乗り出して、水のないイドの中を覗いていた。
…どれくらい覗いているのだろうか。
少女は不適な笑みを口元に、イドから目を離さなかった。
「アリス、本当にその子なの?」
ふと頭上から聞き慣れた声がした。
アリスと呼ばれた黒い少女は、しばらく間を置いてイドから頭上へと視線を移した。
少女の視線の先には、大きな枯れた林檎の木。
その木の上に、大きな大きな猫がいた。
猫は少女の拳ほどある大きさの目を細め、口角を吊り上げ、歯をむきだしてニヤニヤと嗤っていた。
「…お早う。チェシャ」
「やぁ、アリス」
チェシャ猫は嬉しそうな声を出して、アリスに挨拶をした。
アリスも、柔らかな笑顔でチェシャ猫を見つめる。
しばらく間を置いて、チェシャ猫は林檎の木を緩やかに飛び降り、アリスのいるイドの元へと近づいていった。
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